今、ここ、どこか2 Yuuki
- 川上 まなみ
- 8月16日
- 読了時間: 3分
2025年7月の日記 平尾勇貴
2025/7/XX
最近ずっと、ベケット『モロイ』を寝しなに読んでおり、しかしほとんどつねに前日どこまで読んだのか覚えていないから、時にはページを飛ばしたり戻ったりして、一応の栞紐を頼りに、ずっと目に付いた文章だけを追いかけている。のが心地よいことに気付いたのは今年の4月のことだから、かれこれ3か月は読んでいるはずなのだけれど、まだ数十ページしか進んでいない。しかもどんな話だったかまったく印象に残っておらず、『モロイ』はつねにわたしにあたらしい。
2025/7/XX
夜8時まで在宅で仕事をして、近くのスーパーマーケットで特売品の冷凍の弁当を一週間ぶん買う。500円で鯖の味噌煮やハンバーグ、タンドリーチキンなどのバリエーションがあり、そこそこ美味しいので、習慣が続いている。出入り口付近にある果物売り場の陳列棚にはメロンが存在感を放っていた。メロンの季節だ。つやめいている。うれしい。
つやめいてメトロ・ゴールドウィン・メイヤー本当は地球よりも大きな
/瀬口真司「天使給電篇」『いちばん有名な夜の想像にそなえて』
2025/7/XX
久々に職場の上司と先輩と飲み会。残業していたら流れで行くことになったのだが、流れで行くという現象が結構好きで、いつも自分が強く意思したことしかしないため、よくわからないものに行動をゆだねるのがおもしろい。三人は門仲の町中華へ行き、上品な話をひとつ、下品な話をふたつして、午前零時を過ぎたころに解散した。自宅までのタクシーに乗りながら、コロナ前にはたまにやっていた朝の五時まで飲んだあと、始発で会社へ行ってお風呂にはいり、そのまま翌日の仕事をするという飲み会を、人生であともう二、三回はやっておきたいなと、家に着くまでに考えた。仕事のパフォーマンスはとうぜん悪くなるわけだが、この何ごとにも代えがたい背徳感がそこはかとなく相応しいと思える日がある。
2025/7/XX
飛行機のなかでベケット『モロイ』を読もうとするが、寝てしまう。飛行機は釧路空港へ着く。〈目がさめるだけでうれしい 人間がつくったものでは空港が好き〉(雪舟えま)。釧路は7月にもかかわらず長袖でちょうどよかった。会社の先輩と、同業他社の後輩とが避暑に北海道へ行こうと言い出したのは、5月頃だった。こういう未来予測をして時間差で計画を立てられる才能を心底欲しく思う。レンタカーを借り、阿寒湖、摩周湖、屈斜路湖を順にめぐっていく。いずれもカルデラ湖で崖の上から見下ろすかたちになり、そこに大きな空間がそこに在ることを思った。
幻の雪山を見て人の身にはたどり着けないそのカルデラ湖
/鈴木えて「言葉を継ぐ」


2025/7/XX
赤字生活続きにうろたえて社会人8年目にしてようやく家計簿をつけ始めてからというものの、スーパーの特売日を気にする、コンビニでは無駄遣いをしなくなるなど節約意識が生活に根付いてきてしまい、これはまずいぞということで、家計簿をつけるのをやめた。毎月末にクレジットカードの引き落とし額にどきどきするほうがまだましという判断である。わたしはいつも何かしらを間違えているが、ときにこのように優れた判断をくだすこともできる。
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