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今、ここ、どこか21 Manami

  • 執筆者の写真: 川上 まなみ
    川上 まなみ
  • 2025年12月27日
  • 読了時間: 3分

記憶 川上まなみ

 

 静かな川が流れるそばの道を、秋晴れの中を、車はすんすん進んだ。初めて来た道なのに、どこか懐かしさを覚える不思議なこの道を進みながら彼は「幼い頃、夏休みはいつもここで過ごした」という話をしてくれた。その記憶は私の記憶ではないはずなのに、なぜか秋晴れの中に私の記憶と混ざって、「私の思い出」になっていくような変な感覚で、私は幼い頃の彼を鮮明に想像する。隣で運転をする彼は、子どものような笑顔で子どものようなことをやる人なので、そのまま姿を子どもにすれば、鮮明に想像できる。多分彼は、この川で嬉々として魚を捕まえて遊んでいただろう。


 結婚式を終えて、次の週末はお互いの親戚やご近所への挨拶をするプチドライブに出かけた。久々の、何にも追われない週末。彼は運転が苦手だけれど、愛車のミニクーパーを走らせるのが楽しくて仕方ないらしい。今のところは一緒に住んでいない私たちなので、こういう2人の時間がまだ(まだ?)嬉しい新婚である。


 彼の親戚のうちの一家族は、私たちが住む場所から車で一時間かかる小さな町に住んでいる。その町へと向かった。彼の実家は桃とりんごの農家をしていて、今はりんごの収穫時期だ。収穫や配達を手伝っている彼の車はほんのりとりんごの香りを車内に閉じ込めている。「夏休みは桃の収穫が忙しいんだけど、俺がちょろちょろするから、夏休みはいつもここに預けられてた。だから俺の夏休みの記憶はここにある。」と彼は言った。彼の使うオノマトペは面白い。小さい頃の彼はちょろちょろといろんなところを歩きまわり遊びまわっていたのだろう。「桃の収穫時期は、お義父さんもお義母さんも子どものお世話する時間すらないもんね。」と私は言った。夏に手伝ったから知っている。桃は繊細だから子どもに触らせるわけにはいかないし、桃に付いている細かい毛は厄介なので子どもを作業場に連れていくことも叶わなかったのだろう。


 結婚って、本当に不思議だ。過ごした場所も、家族のかたちも、思い出も全然違うのに、それを共有してすり合わせて二人で生活を作っていく。今私たちは、そうやってお互いのことを共有している最中なのだと思う。彼のすべてを知っているわけではないけれど、私の中には今新しく、この町の景色と川の音とそしてさっき食べた蕎麦の味が彼の思い出とともにインプットされた。


 彼の親戚の家は薪ストーブが暖かく、そして明るい家族が出迎えてくれた。「また冬にダイアモンドダストを見においで。」「温泉に入りにおいで。」「一緒にご飯を食べよう。」とたくさんのお誘いを受け、私はそれを真に受けた。また必ず、近いうちにここに来ようと決めた。



あかるさの刃先となれるこの橋に暮れて消残るは声ばかり/上川涼子『水と自由』



 帰り際、彼の親戚に手を振りながら、やはり私はちょろちょろと動き回る幼い頃のその人を想像した。想像するだけで愛おしくてたまらなくなる。その小さな彼にも手を振って、その町を後にするとき、私は私が彼の大好きなこの町を好きになっていくのを感じた。暮れていく秋を引き連れていくつかの橋を渡ったとき、やはり幼い頃の彼の声までもが聞こえてくるような気がした。またここに彼と一緒に来よう。私の母もこの町の蕎麦の味を気に入るだろう。帰り道の秋晴れは、なんだか遠く静かに、そしてさらに彼の思い出話をことさら愛おしくさせた。


 


 
 
 

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