今、ここ、どこか9 Manami
- 川上 まなみ
- 10月4日
- 読了時間: 3分
間違い 川上まなみ
アイルランドでの仕事に慣れてきた頃の私の、面白い英語の聞き間違いについて話したい。私が働いていたのは日本食レストランなので、少し偏りがあるかもしれないが、日本語と英語の違いに惑わされるのが可笑しい毎日だった。
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日本食レストランで働いていたので、もちろんメニューには「Yakisoba(焼きそば)」とか「Ebi Gyoza(エビ餃子)」とか日本語がそのまま英語になった料理名がたくさん並んでいるのだが、日本語を英語の発音で言われると、途端に日本語とは全く違う言語のように聞こえる。
ある女性が「Saki」がほしいと注文してきたときは何を言っているのか分からず、困惑した。私が英語を聞き取れないと思っている女性は、ゆっくりと「Sa/ki」と繰り返すのだが「サキ」というメニューは無い。でも、彼女が、おちょこを持ってくいっと飲む仕草をしてくれて、やっとで彼女の言う「サキ」が「酒」であることを理解した。「け」という発音はこちらの人にとっては難しいみたいだ。
日本の文化が広まっていて、アニメや漫画、日本食に関わる日本語がそのままの言葉で伝わっているのを嬉しく思うのだが、日本人の思う発音とは全然違う発音になっていることが多い。餃子は「ギヨウザ」だし、酒は「サキ」、キリンビールは「キウィン」、ジブリは「ギブリ」。でも、話の文脈から発音と言葉とその意味がつながると嬉しくてたまらなくなる。
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「Lemonレモン」と「Ramen ラーメン」が面白いほど聞き分けられない。日本語で話せばレモンとラーメンは全く違う言葉なのに、ネイティブの話す英語の発音になったとたん、同じような発音に聞こえてしまう。ここには「LとR」という日本人にとって最大の難関がある。実は日本語にとってRとLは同じ音として認識される。しかし、こちらでは全く違う。本来日本人の発音する「らりるれろ」はLに近い音で、Rの音はというと、舌を口の奥側に引いて舌先を口の中のどこにも付けずに発音するので、少しこもった音になる。
ということを踏まえて、「ラーメン」を発音すると、不思議と「レモン」みたいに聞こえてしまう。かくいう「レモン」も、ネイティブの発音は「レメン」と発音するような感覚に近いので、私にはどうしても聞き取れないのだ。
一度、「water(水) with(と一緒に) Ramen(ラーメン)」と注文を受け「水の中にラーメン入れるってどういうこと?」と思ったら、「water(水) with(と一緒に) Lemon(レモン)」、水の中にレモンを入れてほしいという要望だったようで、それを他のスタッフに指摘されて大笑いされてしまった。
留学がストップしてしまったので、英語の勉強を辞めてしまった。少し寂しい。でも今、この日本の生活にはアイルランドの面影も英語の面影も無いまま、私は日本語をこうして操って生きている。お土産のアイルランド産バターも、ジャムも、お菓子も、残りが少しになってしまった。
かなしみの「み」よりしづかにみづうみおしまひの「み」はいつまでも聞こゆ/金田光世「読書灯、みづうみ」『短歌研究』2025 9+10

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